京町家の魅力(出版)
京町家(入門編)
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鍾馗さん(しょうきさん)
 瓦で作られた魔除けの置物。ちょうど玄関の上で一階の屋根、虫籠窓の前に置かれていることが多い。中国の唐の時代、玄宗皇帝の夢の中で鍾馗が小鬼を追い払ったという伝承にもとづいている。また江戸時代では、通 りをへだてた向かい側の家にある鬼瓦の払った邪気が、こちらにくることを防ぐためともいわれる。















京町家
 京町家の基本的なかたちは、“うなぎの寝床”と呼ばれる間口が狭く、奥行の長い敷地が特徴となっている。表通りに面して、間口いっぱいに建てられ、隣家とも側面を接している。近世の町家の住人は商人や職人で、商いや仕事としての店の部分と住居としての機能を併せもつ“職住一体”のものだった。店は表通りに面しているほど有利であり、多くの町家が通りに面して建てられるように間口も狭くなっている。
 現存する京町家は、江戸時代後期から明治時代以降に建築されたものが多い。そもそも、京都は三方を山に囲まれた京都盆地のなかにあり、寒暖の差が激しく厳しい自然環境に対応するため、京町家にはさまざまな工夫が凝らされてきたが、これは日々の暮らしに内包された人と自然との共生の知恵でもあった。

格子(こうし)

京町家の外観で、すべての町家に共通するのは格子です。木の特徴を生かして、風通しや採光、職業によってその機能性や用途にも適した意匠、さらに防犯対策としても機能している建具です。
格子の意匠や形状は、その職業や職能によって異なります。代表的なものとして、糸屋や染物屋に多い“糸屋格子”や“米屋格子”“お茶屋格子”“酒屋格子”“炭屋格子”などがあります。着物や帯の呉服商や小間物を扱う店では、しっかりとした親格子の間に一本子持、二本子持、三本子持などの細目格子を入れて、繊細な趣きのある“子持格子”が多く使われています。“千本格子”とも呼ばれています。そのほかにも“細目(さいめ)格子”“切子格子”“狐格子”など数多くの種類があり、表構えの独特の風情を造りだしています。

犬矢来(いぬやらい)

京都の街路は碁盤の目状で、その道幅は狭く、京町家は常に道と対面しています。舗装道路などのない時代、雨の日の街路は水溜りやぬかるみができ、荷馬車の往来などで泥水やほこりが町家の壁を汚します。また、庇(ひさし)などから落ちる雨垂れは、犬走り(いぬはしり=建物の外壁とその外側にある溝との間の細い通路)のほこりを叩き、格子や壁を汚します。さらに、犬などは犬走りで便をしますし、格子を外して押し入る盗賊にも警戒が必要でした。
そこで考え出されたのが、竹材を使った軽量で簡易な多目的防護柵の犬矢来です。京都には質の良い竹が豊富にあり、竹は繊維方向に割ったり、削いだり、また熱を加えて湾曲させることも可能です。泥水、犬などの糞を防ぎ、さらに竹のしなりと油分によって盗賊の足がかりにもならないなど、多くの難題を解決しました。
青竹の新しい犬矢来が、時間とともに黄金色に変化していく様子は、京都の風情をさらに豊かなものとしています。

竹矢来(たけやらい)

竹や丸太を縦横に組みあわせて棕櫚(しゅろ)縄(なわ)で結び、柵や垣根の役目をするのが竹矢来です。簡素で素朴ですが、その多様性と究極の表現は不思議な魅力があります。

駒寄せ(こまよせ)

表構えの正面に設けている柵で、本来は牛馬をつなぎ止めておくためのものと考えられていますが、現在では軒下に入り込むのを防ぐためのものとなっています。

忍返し(しのびがえし)

うなぎの寝床といわれる敷地が奥に深い京町家は、盗賊にとっては都合の良いものだったと思われます。事実、その被害は大きなものでした。表戸や内戸のかんぬき錠前や、竹を利用した犬矢来、土壁の虫籠窓で防御をしますが、町家のなかに侵入させないための撃退策が忍返しです。
竹の先端を槍の先のように切り落としたものや、鉄棒などの先端を削るか叩き上げて針や斧状にしたもの、平鋼の先端を弓状に折り曲げたものなど、それらを屋根や塀や門の頂部に取り付けます。そのとき、適当なゆるみをもたせて取り付けてありますので、盗賊の手がかり、足がかりを取らせないようになっています。 この忍返しは、町家の風情を損なわず、不思議と京都の町並みにも溶けあっています。

虫籠窓(むしこまど)

厨子という中二階の正面に設けられた漆喰(しっくい)や大津土、じゅらく土を塗って整えられた窓を虫籠窓といい、内側には障子戸が付いています。その堅牢さから盗賊除けともなりますが、夏場にその障子を開けておくと中二階や屋根裏の熱を抜く役目を果たし、下の部屋が涼しく過ごせるといいます。虫籠窓は京都の表通りの表情をつくり出す大事なものです。

出窓(でまど)

格子が取り付けられた出窓の内側は、障子やすりガラスなどの内戸が入っています。風通しや採光はいうまでもありませんが、出窓によって狭さを和らげる配慮があります。単一となりがちな表構えに、独自の美意識を感じさせる出窓は、京町家の趣を表現するものでもあります。

ばったり床几(ばったりしょうぎ)

正面の格子と一緒になって、上げ下ろしのできる折り畳み式のばったり床几は、見世棚として使われるもので“揚げ見世”とも呼ばれます。商品の陳列台であったり、作業台であったりしますが、店をしまうときには閉じられます。

瓦屋根(かわらやね)

江戸時代の度重ねる大火から、瓦が用いられるようになりました。桟瓦の一種である“一文(いちもん)字(じ)瓦(がわら)”は、下端が直線で正面には飾り模様がなく、軒下がまっすぐに整理され、すっきりとした外観を演出します。この美しい甍(いらか)の波は、京都の景観を支える大事な要素です。     

鐘馗さん(しょうきさん)

唐の玄宗皇帝にとりついた邪気や疫鬼を退散させたという、中国の故事にならった魔除けの鐘馗さんは、表通りに面した庇の上の虫籠窓の前などに祀られます。

卯建(うだつ)

建物の妻側の壁を、大屋根より一段高く立ちあげて小屋根をつけたものを卯建といいます。古くは一軒の独立を表す象徴の意味合いでもありましたが、壁に漆喰が塗られるようになると防火、延焼防止の機能も備わってきました。京都の卯建(京卯建)は、各地の卯建と比べますと設計や意匠が控えめです。瓦屋根が水平に連続するなかに縦に建つ卯建は、京都の町に変化を与えてくれます。

京行燈(きょうあんどん)

行燈には、竹で組まれたものや障子組みのもの、網代、鉄の打ち抜き、打ち出し、銅板の鍛冶によるものなど、多彩なものがあります。金物を工夫して遊び心のある京行燈が面格子の上部に張り出し、看板や暖簾(のれん)などと調和して、京都の情緒をさらに豊かに表現しています。

京看板(きょうかんばん)

看板は屋号や商品名、職種などを人々の目線に合わせて、道に直角に表示するものと、表構えに並行して軒下や庇の上に掛けるものとに分けられます。京看板の表現方法や手法、その加工、装飾技術は工芸品でもあり、京都の町並みを個性豊かに飾っています。

暖簾(のれん)

暖簾はその店の格式と信用を決めるものでもあります。室町時代初期から商家で使われ始め、江戸時代になって急速に進展していきました。暖簾には水引暖簾、長暖簾、半暖簾、花暖簾、縄暖簾、玉暖簾、竹暖簾など多くの種類があります。京町屋の商家の格式を示す水引暖簾は、庇に幅一杯に掛けられます。長暖簾は、鴨居(かもい)から敷居までの丈のながいもので、畳一畳ものを基
本として二枚、三枚と合わせていきます。
陽光を遮る日除けでもあり、通り庭の中間に掛ける内暖簾は、店と住居と の境を示すものでもあります。

(すだれ)

簾は、細く割った竹や葦(よし)、麦藁(むぎわら)などを麻や綿の撚り糸で編み、一枚の板状にしたもので、簾掛けから下げたり、巻き上げたりして使用します。夏の暑い照り返しや西日などを遮りますが、陽射しのないところにも簾が掛かっていることがありますが、これはカーテンの役割を京町家に似合う簾で補っているものです。  

(へい)

京町家は道に沿って軒を連ねて建ち並んでいます。塀は、練り塀や土塀、築地塀などとともに、板塀が京都の特徴でもあります。じゅらくで塗られた壁に下地窓を空けた数寄屋風の塀も、建物と一体となった独特のものです。

路地(ろじ=露地)

京町家の通り庭に面して、店→玄関→台所→奥の間→庭へと続く家屋の中にも路地があります。また、うなぎの寝床といわれる奥深い京町家を有効利用した路地があります。例えば、間口四間、奥行四十間の敷地であれば、幅7.2メートル、奥行72メートルと奥深く、その敷地の端に路地をつくり貸家や使用人の住居を奥に造り住まわせます。通り抜けの路地であったり、突き当たりの路地であったりします。路地文化といわれるように、路地の特徴を生かした人々の生活や暮らしが見えてきます。   

敷石(しきいし)

京町家では、玄関入口に踏み石を据え、通り庭には家の奥まで飛び石や敷石が見られます。また、中庭などでも大石や石灯篭が置かれ、石との関係は深いものがあります。茶室の露地にも飛び石が配され、無の境地を誘う演出効果を発揮しています。
形状や配置の方法などによって特徴的な表情を見せてくれます。

(くら)

火災や盗難から商品を守り繁栄を祈願して、家相上、屋敷の北西と南東の位置に蔵を建てました。金品蔵、道具蔵、商品蔵など、酒蔵や醤油蔵、米蔵などとして用いられ、なかには住居の特別室とした座敷蔵などもありました。難を逃れるように、“水”“火”などの文字や家紋を妻側の壁に漆喰で表わします。各地の蔵と比較しますと、京都の蔵は機能性や扉の重厚さ、施錠などの防備に重点が置かれ、意匠にはあまり凝らず簡素な機能美に富んでいます。

通り庭(とおりにわ)

京町家の表から奥へと続く細長い土間を通り庭と呼び、風通しや採光とともに人の通る場所でもあります。食事の準備をするところですので、熱を逃がし煙を処理するために、上部は火袋という吹き抜けになっています。店の間には見世庭、玄関は玄関庭、台所から奥へ坪庭や蔵のところは走り庭と呼びます。台所、奥の間の通り庭には井戸、はしり、くど、水屋(物入れ)があります。はしりは長し台で、くど(おくどさん)は煮炊きをする竈のことです。

煙出し(けむりだし)

竈のある上部で、屋根の棟部分に開口部を設けて、その上に小さな屋根がつくられたものを煙出しといいます。竈などで炊事をした煙を屋外に出すものです。

箱階段(・はこかいだん)

階段(かいだん)箪笥(たんす)とも呼ばれる箱階段は、階段下の空間をタンスや引き出しとして活用できるように、柱などと一体となっているものと、移動できる可動式のものとがあります。
また、箱階段と同様に狭い空間を利用した“隠し階段”は、押入れを利用して襖の奥に傾斜の急な階段を作ったものです。

おくどさん

現在でいう台所、かまどのこと。走り庭に、内井戸、流し、戸棚などと縦一列に並んでいます。その高い吹き抜けの天井には、煙を出すための高窓や天窓が多く見られ、採光の役割も。京のおくどさんには、火の神様として親しまれている愛宕神社の「火迺要慎」のお札が貼られています。